一般的な自動車・英国車用のSUキャブレターと、ハーレーダビッドソン等のVツインエンジン向けに最適化された American Prime Mfg.(APM)製SUキャブレター(SU ELIMINATOR II等)との違い、および取り扱い上の重要注意点についてまとめました。
主な違い
一般的なSUキャブレターが「ダンパーオイルの粘性抵抗」を利用して加速時の急開による過渡的な空燃比の薄化を抑えるのに対し、APM製SUキャブレターはハーレー特有の大排気量・強脈動エンジンに合わせて構造や調整機構が変更されています。
1. オイルダンパー機構の排してスプリング制御へ移行
- 一般のSU:ドーム上部からダンパーオイルを注油し、オイルの抵抗(油圧減衰)でピストンの上昇速度を抑える。
- APM製SU:ダンパーオイルを使用せず、ピストンスプリング(Piston Return Spring)のバネレートによって混合気の濃淡や応答性をコントロールする。
2. 始動補助機構(Tickler Pump)の装備
- 一般のSU:チョーク弁やチョークレバーによってジェットを引き下げ、始動時の混合気を濃くする機構が主。
- APM製SU:始動性を改善するため、特許取得済みの加圧式「ティクラーポンプ(Tickler Pump)」を本体に直接圧入で搭載。パイプを押し込むことで直接燃料を送り込む仕組みを備える。
3. ニードルの固定方式
- 一般のSU:ニードル留めネジを緩めて上下位置を調整できるタイプが存在する。
- APM製SU:ニードルはガイド内に完全に固定されており、ガイド底面がピストン底面とツライチ(Flush)になるようセットされる。位置調整はセットスクリューの上下ではなく、メインジェットの調整スクリューやニードルプロファイル(形状)の交換によって行う。
整備・セッティングにおける重要注意点
1. ダンパーオイルは絶対に使用禁止(NEVER use any oil)
APMのテクニカルデータ(APM-SU-Tech-Info.pdf)において最も強く警告されている項目です。
- 禁止理由:オイルを入れるとピストンの上昇が遅れ、過度な過濃状態(Rich)を引き起こしてエンジン不調の原因となります。
- 正しいメンテナンス:30日ごとにドームキャップを外し、ピストンシャフト周辺に軽度のWD-40(スプレー潤滑剤)を噴射して、ピストンが常にスムーズかつ自由(Float freely)に動く状態を保ちます。
2. 空燃比調整はピストンスプリングとニードルで行う
バネの硬さを変更することで全回転域の空燃比特性を調整できます。
- 4-1/2 oz(ストック/標準):最も柔らかく、全体的に薄め(Lean)傾向。
- 8 oz(Yellow / Silver):中程度の硬さ(チューニングの基本)。
- 12 oz(Green):最も硬く、全回転域で濃い(Rich)設定へ変化(ハイカムや排気量アップ車両向け)。
3. ニードル調整スクリューの回しすぎに注意
- メインジェット調整スクリューによる調整は始動用・微調整用です。
- 調整スクリューを左右に2回転以上回す必要がある場合は、ネジで無理に調整するのではなく、テーパー形状の異なるジェットニードル(例:BBD → BBT → BBX 等)への変更が推奨されます。
4. ティクラーポンプの取り扱い
- 取り外し禁止:ティクラーポンプ本体はキャブレターボディに圧入されているため、むやみに取り外してはいけません。
- 漏れ発生時:ポンプからガソリンが漏れる・滴る場合はすぐに燃料コックを閉じ、フロート室のゴミ詰まりやフロートバルブ(Needle & Seat)の着座不良を確認してください。
エンジン仕様別の推奨セットアップ
American Prime Mfg.(APM)のテクニカルデータ(SU ELIMINATOR II)に基づく、ショベルヘッドおよびエボリューションエンジン向けの推奨セットアップです。
エンジンのチューニング状態(ノーマルかモディファイか)に応じて、組み合わせが変わります。
1. ノーマル仕様(Stock Shovelhead / Evolution)
基本のキット出荷時状態(Standard Kit)が適用されます。
- ジェットニードル:
BBT(標準装備ニードル) - ピストンスプリング:
4-1/2 oz.(スタンダードスプリング) - メインジェット:
.100
2. チューンド仕様(Modified Shovelhead / Evolution)
シリンダーヘッドのポート加工(Headwork)やハイカム組み込み、排気系変更などを行っているチューニング車両向けの推奨設定です。
- ジェットニードル:
BBT(濃くする場合はBBXを使用) - ピストンスプリング:
8 oz.(Silver または Yellow スプリング) - メインジェット:
.100
3. ストローカー・大排気量仕様(Stroked Engines / 93 cu.in.〜)
排気量を拡大しているストローカーエンジンの場合、スプリングとニードルに加えて燃料供給量の増量が必須となります。
- ジェットニードル:
BBTまたは より濃いニードル(BBX,BCJなど) - ピストンスプリング:
8 oz.または12 oz.(Green スプリング) - メインジェット:
.1015(Part #1109-0020)または.1024(Part #1042-0071) - 標準の
.100メインジェットを 101.5(1.015mm)のドリルビットで拡張加工して使用することも推奨されています。 - 追加推奨パーツ:燃料流量を確保するため、フロートボウルスペーサー(Part #RE-680-S / 1042-0023)の追加(フロート室容量を約2倍に拡張)。
ニードルとスプリングの選定ガイド
補修用・セッティング用ニードルは、以下の順で濃くなります。
ニードルプロファイル(薄い ➔ 濃い)
BBD(最も薄い) ➔ BBT(標準) ➔ BBX(濃い) ➔ BCJ ➔ BBZ(最も濃い)
ピストンスプリングのレート(薄い ➔ 濃い)
- 4-1/2 oz.(または 4 oz. Red):ノーマル向け。ピストンの上がりが早く、全体的にやや薄めのセッティング。
- 8 oz.(Silver / Yellow):チューニング車向け。ピストンの上がりを抑え、全回転域で適度に混合気を濃くする。
- 12 oz.(Green):大排気量・ハイパワー向け。最も強いバネで全域を濃いめに維持する。
参照: American-Prime-Mfg_SUキャブほか
American Prime Mfg Installation Guides