エントロピー

エントロピーとは、一言でいうと「物事の乱雑さ(バラバラ度合い)」や「エネルギーの分散具合」を表す物理学の指標です。自然界のあらゆるものは、放っておくと「きれいに整列した状態」から「バラバラに乱れた状態」へと向かう性質があり、この乱れ具合が大きくなることを「エントロピーが増大する」と表現します。

エントロピーの語源と歴史

エントロピー(entropy)という言葉は、1865年にドイツの物理学者ルドルフ・クラウジウスによって作られました。彼は熱力学という、熱と仕事の結晶のような学問を研究するなかで、熱が効率よく仕事に変換されるプロセスと、二度と戻らない非効率なプロセスがあることに気づきました。

そこで、ギリシャ語で「内側へ」を意味する「en(エン)」と、「変化・変換」を意味する「trope(トロペ)」を組み合わせ、すでに存在していた「energy(エネルギー)」という言葉の響きに似せて「entropy」と名付けたのです。つまり、エネルギーが形を変える際につきまとう「変換の度合い」を意味していました。

その後、19世紀後半になるとオランダやオーストリアの物理学者、特にルートヴィヒ・ボルツマンらによって、この概念は分子や原子の「ミクロな動き」と結びつけられます。これによって、熱の移動というマクロな現象だったエントロピーは、「分子がどれだけ乱雑に散らばっているか」という確率的な乱雑さの指標へと進化を遂げました。

日常生活にたとえるエントロピー

物理の数式を使わずにエントロピーを理解するには、部屋の片付けをイメージすると分かりやすいでしょう。

きれいに片付いた部屋は、本は本棚、服はクローゼットと、物が決まった場所にしかありません。これは「整然とした状態」であり、エントロピーが「低い」状態です。しかし、生活しているうちに本を机に置き去りにし、服を床に脱ぎ散らかしていくと、部屋はどんどん散らかっていきます。これがエントロピーの「高い」状態です。

重要なのは、「放っておくと部屋は勝手に散らかる(エントロピーが増大する)」けれど、「放っておいても勝手に片付くことは絶対にない」ということです。散らかった部屋を元に戻すには、片付けるという外部からの「エネルギー(労力)」を注入しなければなりません。これが自然界の基本的なルールです。

他にも、以下のような現象がすべてエントロピーの増大によるものです。

  • 水に落としたインクの滴が、勝手に広がって混ざり合う現象
  • 熱いコーヒーを放置すると、周囲の空気と混ざり合ってぬるくなる現象
  • 新品の自転車が、時間が経つにつれてサビてボロボロになっていく現象

熱力学第二法則と世界の終わり

物理学には「熱力学第二法則」という絶対的な決まりがあります。これは「孤立したシステムの中では、エントロピーは必ず増大し、決して減少することはない」という法則です。

この法則を宇宙全体に当てはめると、少し切ない未来が見えてきます。宇宙が誕生したばかりのころは、エネルギーが一箇所にギュッと集まった、エントロピーが極めて低い状態でした。しかし、時間が経つにつれて星が燃え尽き、熱や光が宇宙空間に均一に拡散し続けています。

あらゆるエネルギーが完全に分散しきって、宇宙全体の温度がどこもかしこも一様になってしまうと、もはや熱の移動(=変化)は起きなくなります。これを物理学では「熱的死(ねってきし)」と呼び、宇宙の最終的な終わり方のひとつと考えられています。エントロピーとは、宇宙が未来に向かって進む「時間の矢」そのものを表しているのです。

情報理論への応用

20世紀中頃になると、エントロピーの概念は物理学の枠を飛び越え、通信やデータの「情報理論」へと応用されました。アメリカの数学者クロード・シャノンが提唱した「情報エントロピー」です。

情報の世界におけるエントロピーは、「予測のつかなさ(不確実性)」を表します。例えば、次に何が起こるか完全に分かっている状態(明日の天気が100%晴れだと知っているなど)は、不確実性がゼロなのでエントロピーは低いです。逆に、コインを投げたときに表が出るか裏が出るかまったく予想がつかない状態は、不確実性が最大になり、エントロピーが高くなります。

このように、19世紀に熱のロスを計算するために生まれたエントロピーは、現代ではインターネットのデータ圧縮や暗号の安全性を計るための重要な道具として、形を変えて生き続けています。

原典URL:https://www.britannica.com/science/entropy-physics

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